自治医大5年のM君の実習日記

 

23日(月)

いよいよ今日から古屋先生のもとでの実習が始まる、そう思うと期待と緊張で胸は高鳴った。9時からと言われていたが、張り切って840分ごろには診療所に着いてしまった。職員の方はいかにも実習学生に慣れていらっしゃるという感じで、すぐに僕の緊張は和らいだ。先生が9時をちょっと過ぎたころお見えになった。先生とは昨年の10月、自治医大の駅前の居酒屋で偶然お会いして一緒にお酒を飲んで以来である。

先生の笑顔を拝見して緊張は完全になくなった。そしてあらためて「古屋先生は実年齢よりもお若く見えるなあ」と感じた。

午前の外来見学の後はいよいよ楽しみにしていた訪問診療。事務の吉岡さんの運転で、先生と看護師さんと僕の計4人で出発した。車の中で、古屋先生が訪問する患者さんのことについて詳細に話して下さった。完璧なまでに患者さん、及びその家族の背景を認識・理解されていることに驚いた。1軒まわるたびに、「今の患者さんは○○のことをどう思っているか」というような質問を受けた。○○には妻や息子などが主に介護者が入る。また逆に介護する側は患者のことをどう思っているかという質問も受けた。僕が答えにつまっていると先生は明確に持論を述べられた。目から鱗が落ちた。在宅医療とは、在宅で単に問診、診察、処置(処方)をするのではない、もっとスケールの大きなものであることを強く感じた。

夜、診療所近くの飲み屋で焼き鳥やお酒をご馳走になった。シロ、というものが特に美味くてはまってしまった。お話もたくさんした。先生の地域医療にかける熱い思いがひしひしと感じられて、「こんな熱い先生のもとで実習できるなんて俺は超幸せ者だ。山梨まで来たかいがあった。」と率直に思った。

実習はまだ始まったばかり、でも裏をかえせばあと4日しかない。精一杯がんばるぞ!!

 

2月4日(火)

今日は、宿泊先の旅館「松仙(しょうせん)」に先生がお車で迎えに来てくださったところから一日はスタートした。向かった先は甲府市の藤原整形外科。藤原先生は自治の一期生で古屋先生の先輩にあたる。古屋先生は月一回藤原先生の代わりにこの病院の外来を担当されるとのこと。

病院に入ってまずスタッフの多さにびっくりした。リハビリ関係だけで5、6人。計10人はおられた。こんな個人病院は初めてだ。猫に噛まれた人の傷の縫合や骨折の徒手整復などいろんな症例をみることができて、不謹慎な言い方だが、僕にとってはラッキーだった。(患者さん、ごめんなさい。)そして整形外科や解剖の知識がいかにないかを思い知り、「この春休み、これらを勉強(復習?)しなければならんなあ」と痛感した。とか言いながら、結局勉強せずに新学期を迎えそうな予感がするけど、もう6年になるんだし、やっぱりもう甘えてられないかな。

昼は山梨名物のほうとう、しかも鴨入りのやつをご馳走になった。激ウマだった。

午後は先生が、末期がんの父をもつ方のカウンセリングを行っている間、僕は県立美術館を見学した。実習に来ているのにこんな旅行みたいなことも体験できてとても満足だった。

帰ってから1軒訪問をして今日は終了。

 

2月5日(水)

今日は僕が泊まっている旅館「松仙」のおばちゃんのことを書こうと思う。

2日(日)、塩山駅前の交番で場所を尋ねてようやく21時頃に旅館に到着した。旅館といっても外見はほとんど普通の家だった。玄関をあけるとおばちゃんはすぐに来て、「遅かったから心配してたんや。」と言ってくれた。「コンビニ近くにありますかねえ」と尋ねると、「教えてやるから車、隣乗せてもらうで。」と言って僕の車にお乗りになった。こんなわけで、思いもかけずお会いして1分くらいでいっしょにドライブする関係にまで発展した。いっしょにコンビニで買い物して、帰りに診療所へも案内してもらった。テレビが1時間100円とお金をとることや、部屋に暖房がないことや、温泉街なのに風呂は温泉でないことなど多少の不満はあったものの、このおばちゃんの独特の人柄に触れて「これは面白い5日間になりそうだわ。」とにんまりした。3日の朝は、門限は9時だから、9時には鍵閉めるよと念を押された。「古

屋先生はすごくお酒が強くて言われるままに飲んでたら体は壊すしつぶれて帰ってこれんようなるから『自分はお酒あまり飲めません。』て言うてしっかり断るんだよ!もしなんなら今おばちゃんから先生に電話して言うてやろうか?」それはいいです、と言ってとりあえず出発した。その日、帰りは9時半ごろになってしまったが鍵は開いてた。「意外と早かったね。さあさ、お風呂沸いてるから早く入って寝なさい。」怒られるかもと思っていたが温かく迎え入れてくれて嬉しかった。

こんな感じで、部屋は寒いけど、おばちゃんの温かさに触れて快適な塩山ライフを送れている。あと残り2日、エンジョイしたいと思う。

 

2月6日(木)

今日は午前中は腹部エコーをやらせてもらった。実際の患者さんにするのはまだ2回目だったので不安だったけど、時間をかけてやっているうちに各臓器の描出はそれなりにできるようになった。ただし脾に接した2cmくらいのmassを見落として後で先生に指摘されるなどまだまだである。けれどすごく良い経験になった。外来や在宅で問診や身体診察をさせていただけるのも有難い。特に今まで全く自信のなかった心音がだいぶ聴取できるようになってきたのはうれしい。ASARは心音だけでけっこう診

断できるものだなあ。

午後は先生の娘さん(次女のはなちゃん)と一緒に、山梨医大付属病院に連れて行って頂いた。意外と病院が小さいと思った。(300床くらいとのこと)大学にも潜入していろいろ見て回ったが、ロビー(自治医大でいう北口)にパソコンが10台くらいおいてあって学生が自由にネット検索しているのには驚いた。なんとも便利でうらやましいシステムだ。

夜は、先生が一人の患者さんとのカウンセリングのために片道2時間もかけて行かれるのに同行させて頂いた。古屋先生が面接しておられる間は先生の後輩でいらっしゃる山梨12期生の萩原先生にお世話になった。(療養病棟の回診やお話など。)帰り道は古屋先生から、今話題になっている長野県の田中知事発言の問題についてお聞きした。先生が、来週月曜そのことで長野に出向かれるということをお聞きして、その行動力とパワーに感激した。先生の、正義を貫こうとする姿勢は僕も大いに見習いたいものだ。

帰り、お寿司をご馳走になった。夕べも先生のお子さんたちと夕食をご馳走になったし、「こんな毎日おいしいもの食べてばかりだとますます太ってしまうなあ」と思いつつも、それがなかなかやめられないんだなあ。

いよいよ明日が最終日。なんか無性に寂しくなってきた。

 

2月7日()

朝、5時から営業している温泉が近くにあるということなので、行こうとしておばちゃんに場所を聞いたら、おばちゃんがなんと温泉代500円を僕にくれた。なんかほんとの孫と祖母みたいな感じがしてすごく幸せに感じた。「おばちゃんも一緒に行きましょうよ!」と誘ったけど「湯冷めするからわたしゃいいよ。」とのことなので一人で行った。旅館に戻って荷物の整理してたらなんか涙がこみあげてきた。それからおばちゃんの部屋に行っておばちゃんにお礼を言ってお別れした。またこの辺来る機会があったら必ず寄るからと約束した。立派なお医者になって、とのおばちゃんの言葉を胸に最終日の診療所に向かった。

訪問診療は初めて先生にお代わりして行った。皆安定している患者さんばかりだったとはいえけっこう緊張した。まあでも無難に役割を果たせたなと満足して帰ってきた。訪問診療レポートも書き、将来も僻地でこんな感じなのかなと想像できた。夕方は東京医科歯科大大学院助教授の志村先生の講演を聞き、いろんなディスカッションもできて楽しい時間を過ごせた。その後、2軒の訪問に行った。最後の訪問先となったリウマチの女性はこの一週間で最も印象深い患者さんとなった。古屋先生が常に言っておられる「どうしたら患者さん(及びその家族)が幸せになれるか」ということを特にこの患者さんに対して深く考えさせられた。

22時を過ぎたころ、僕の5日間の実習は幕を閉じた。

古屋先生には大変お世話になりました。本当に有難うございました。おかげさまで、今までのBSLでもっともエキサイティングでかけがえのない実習をすることができました。夏休みあたりにぜひまた実習させて頂きたいと思います。今後ともご指導、ご鞭撻、宜しくお願い致します。